中古ワイン市場、ワイン買取の初め
弊社がまだワインのインポーター(輸入会社)で、フランスから高級ワインの輸入をしては全国のワインショップやレストランに営業していた時期のこと。ある意外な出来事に出くわしたのだ。確か代官山のレストランだったのだがこちらが販売したワインのお届けに伺ったとき、「細谷さん、うちのレストランにあるロマネ・コンティを買ってもらえませんか?」と依頼をされたのだ。レストランが所有したワインをうちが買い、一体どうすればいいのだろう。戸惑いながらも一般的に輸入する価格より若干安い価格で購入させてもらうことにした。
このことが未だ存在しなかった日本の中古ワイン市場をしっかりした業界に作り上げようとその後、鋭意奔走することになるとはその時は思いも寄らなかった。
現在でも変わりはないが、ワインは銘柄が全く同じでも優良インポーターから輸入されたワインは高い評価されることになる。有名な高級ブルゴーニュワインのジョルジュ・ルーミエには株式会社フィネスの輸入社シールが貼られていることが最上なのだ。知らない名前の輸入社シールが貼られていると途端にどんな保存状態でどんな輸入経路を辿ってきたか不安になるのがワイン市場、ワイン愛好家と言うものだ。しかし、一旦個人が購入し、個人のワインセラーに入った途端、そのワインには販売先が無くなってしまうのがそれまでだった。生産者の倉庫から個人が購入するまでの一連の流れが一次流通、個人が購入した後が二次流通。日本のワインの二次流通市場には暗いモヤがかかっていて、ワインの仕入れを一次流通だけしか知らなかった我々にとって一旦個人が購入したワインなどは決して視界に入れてはいけない世界のものだったのだ。
前述のロマネ・コンティは状態も良くサントリー社が輸入した正規輸入品だったこともあり、仕入れルートをしっかりとご説明して市場価格より安くしたところ、ある京都のワインショップさんに購入して頂けることになった。これをきっかけに私はフランスからの輸入を続けながらも仕入れ先を日本のレストランだけでなく個人にも広げることにした。ホームページに「ワインを買取いたします」と掲載し始めた。徐々に問い合わせが入り、個人からワインを買い取り、それをヤフオクや楽天で販売し、時にワインショップさんに営業した。それが数ヶ月続いた後、ある出来事が起こることになる。
二軒ほどのワインショップさんから弊社との取引停止を勧告され、それまでに弊社が輸入して先方に販売していたワインを全て返品させて欲しいと言われたのだった。理由は、弊社が『ホームページで個人からワインの買い取りをしている』、このことだけだった。「そんなことをする会社のワインをうちでは売れない。とりあえず今あるのは全部そっちに送るからね。細谷さん、いまにお客さんいなくなっちゃうよ。」なるほど、個人からワインを買い取ることは業界的にタブーだったのだ。その後、かつてある有名なワインの会社が個人からワインを仕入れたことがあったのだがなんだか大変な目にあったという話を聞いた。しかし、一体何がどう、誰がどれだけいけないことをしているというのか?確かにとんでもない状態のワインもあるが、ワイン愛好家に愛情を持って保存されてきた素晴らしいワインもある。私の何かに火がついた瞬間だった。
この本では日本のワイン愛好家のために、どのような方法でご自分のワインを売りたいときに適正な価格で売れるようになるのか。大事に保存されてきたワインを手放さなくてはならなくなった時にどのように安心してワインを次の方へ移動できるのか。その問題を解決するためのお手伝いができれば良いと思っています。そして購入するときももっと賢く買える方法があるかもしれません。ぜひ皆さんのお役に立てましたら幸いに存じます。